マイケル・ポーターの競争戦略 コストリーダーシップ戦略とは何か?とその例

マイケル・ポーターの競争戦略 コストリーダーシップ戦略とは何か?とその例

これまで数回にわたり、経営戦略における「企業戦略」に関して説明してきました。すなわち、企業としてのミッション・ビジョン・バリューを定め、現状分析を実施し、企業を成長させるための事業領域(製品・市場)を選択し、企業内の資源を最適配置するといったものでした。これらを行うことによって、企業が成長するための事業領域とそれぞれの資源配分が決まることになります。

続いて実施するのが個々の事業の事業戦略です。この事業戦略は、時として「競争戦略」とも呼ばれ、如何に競争優位を構築しながら収益を上げていくかを考えることになります。その際、ゼロベースで考えるのではなく、戦略の基本的パターンを知っておくことで、戦略の成功確率があがり、立案にかかるコスト・期間を抑制することができます。今回から数回にわたり「競争戦略」において非常にメジャーな「ポーターの競争戦略」と「コトラーの競争地位戦略」に関して説明します。今回は、まず、「ポーターの競争戦略」における「コストリーダーシップ戦略」に関して実例交えてご紹介していきます。

事業戦略とは競争戦略

経営戦略とは、企業戦略+事業戦略+機能戦略」の中でも述べたように、企業全体の中での成長領域の選択とその領域間での資源配分を「企業戦略」と呼びます。一方で、配分された経営資源をもとに、競争優位の構築と市場における需要の充足を行いながら、収益および利益を実現し、経営資源を拡大させていくことを「事業戦略」と呼びます。

事業戦略はシンプルに表現すると、現状分析をして達成可能な事業目標を設定し、達成させるための手段を考えることです。しかしながら、事業によって事業環境は千差万別であり、事業ごとの様々な個別事情を考えていくとなると、取りうる戦略オプションは指数関数的に増加し、戦略立案に膨大な時間とコストがかかることになります。

そこで役に立つのが、「ポーターの競争戦略」や「コトラーの競争地位戦略」といった基本戦略です。ベースとなる基本戦略をもとに、事業毎の個別事情を加味していくことで、大きな戦略の過ちや、時間とコストを抑制することができます。以降では、「ポーターの競争戦略」に関して解説していきます。

マイケル・ポーターの競争戦略とは

マイケル・ポーターは、競争の手段を

  • コスト(提供するソリューションは同質的)か差別化(提供するソリューションは異質的)か
  • 対象ターゲットが集中(競争に対する態度は競争回避)か広域(競争に対する態度は競争受容)か

の2つの要素で整理し、そこから競争優位を構築するための基本戦略(競争戦略類型)として、
次の3つの基本戦略があるとしています。
 ①コストリーダーシップ戦略
 ②差別化戦略
 ③集中戦略

コストリーダーシップ戦略とは

コストリーダーシップ戦略とは

「コストリーダーシップ戦略」とは、競合企業より低コストに抑えて、商品やサービスを競合企業を下回る低価格で提供し、競争優位を確保する戦略です。ここでいう「低コスト」は安売りや低価格戦略ではなく、「低い費用」「低い原価」を意味します。よって、コストリーダーシップ戦略は、製品の生産コストを抑えることで、安価な商品やサービスの提供を目指す戦略です。

その際、さまざまなコスト削減によって、いかに原価を抑える仕組みを作り出せるかが鍵になりますが、一旦仕組みを構築してしまえば、他社よりも安価に提供することでシェア獲得を目指したり、同等の価格で提供して利益率を増大させたりと、経営における自由度を増すことができます。

コスト優位の源泉。コストリーダーシップ戦略を実現させるための要件

競合他社に対してコスト優位を築くには様々な手段があります。以下に具体例を示します。

規模の経済性

規模の経済性とは、事業規模が大きくなればなるほど、単位当たりのコストが小さくなり、競争上有利になる効果のことです。

  • 生産規模拡大による工場や設備のコスト(固定費の効率化)
  • 生産規模拡大による従業員の専門化(専門化による作業効率化)
  • 間接コスト(会計・財務コストなどの配賦額の減少)

学習曲線による経済性

学習曲線(経験曲線)による経済性とは、累積生産量増加に伴って、製品1単位当たりの製造コストが低下する効果のことです。

その他の技術上の優位

規模といったもの以外の技術面からの優位性です。

  • 物理的な技術の向上(ハード技術面)
  • 生産現場での改善活動やコスト削減を優先する企業文化(ソフト技術面)

コストリーダーシップ戦略を実行するための組織

コストリーダーシップ戦略を実行する組織にはいくつかの特徴があります。以下に具体例を示します。

組織構造

  • 少ない階層の報告構造
  • 単純な報告関係
  • 少数の本社スタッフ
  • 特定機能分野への事業集中

マネジメント・コントロール・システム

  • 厳格なコスト管理システムの存在
  • チャレンジングなコスト数値目標
  • 材料・原材料・人件費などコスト項目に対する詳細なモニタリングの仕組み
  • コストリーダーシップの価値観が社員に浸透していること

報酬システム

  • コスト削減に対する報償金制度
  • 社員へのコスト削減に対するインセンティブ制度

コストリーダーシップ戦略をとる企業とは

コストリーダーシップ戦略ですが、業界トップでシェアNo.1の企業に採用される可能性が高い戦略です。規模の経済にって1ユニット当たりの固定費が下がるとともに、累積生産量が多くなるほど経験曲線効果によって変動費も下がります。トップ・シェアを確保している企業だからこそ、コストを低くすることが可能になるわけです。トップ企業の基本戦略は、低コストをベースとしながらも、価格は極端に下げることはせず、一定のマージンを確保しながらシェアの最大化を図るというものになります。

コストリーダーシップ戦略の例

事例1:マクドナルド

まず、コストリーダーシップ戦略の成功企業として挙げられるのは、ファーストフード業界で最も有名なブランドの1つであるマクドナルドでしょう。

コストリーダーシップ戦略をとっている代表的な企業でありますが、どのようにして競争優位性を確保しているかを以下でみてみましょう。

調理プロセスの最適化
マクドナルドは、ハンバーガー等の調理プロセスに関して、あらゆる効率化・省力化の工夫をしています。その結果、品質を保ちながらも、コストを抑えることを可能にしています。

マニュアルとトレーニング
工程を最適化したうえで、マクドナルドはマニュアル化とトレーニングを徹底しました。その結果、すでにトレーニングを受けた料理人を雇うのではなく、新入社員およびアルバイトを採用してトレーニングすることで、賃金を抑えています。

垂直統合
競合他社と比較して、マクドナルドは自社製品を製造する施設を独自に所有しており、コストを最小限に抑えています。

事例2:アマゾン(amazon)

コストリーダーシップ戦略の成功企業のグローバルな例としては、皆さんご存じのAmazonも典型的な成功事例といえます。同社の戦略は、他の実店舗の小売業者と比較して、明らかにコストリーダーシップです。

Amazonは、次のような複数の方法で競争上の優位性を実現しています。
規模の経済
同社は巨大な倉庫設備と処理能力を備えているため、物理的な規模の経済を通じてコストを削減できます。
高度なテクノロジー
高度なテクノロジーを用いたITインフラストラクチャーを使用することにより、Amazonは最大の運用効率(および最小化されたコスト)を実現しています。
プロセスの自動化
同社は、購入処理や配送スケジュールなど、多くの運用プロセスを自動化させています。

Amazonのいわゆる「フライホイール戦略」にあるように、「LOWER COST STRUCTURE(低コスト体質)」と、「LOWER PRICES(低価格)」が同社の戦略であり、成長に寄与しているといえます。

以上でみたように、Amazonの主な戦略は圧倒的なコストリーダーシップ戦略ですが、一部、差別化戦略もとっています。たとえば、同社が差別化を図った方法の1つが、パーソナライゼーション、レコメンデーションおよび顧客のレビューといったものです。これらを通じて、Amazonからさらに購入するよう顧客に促すといった戦略をとっています。

事例3:IKEA

コストリーダーシップ戦略の成功企業のグローバルな例としてはもう1つ挙げられるのが、スウェーデンの家具メーカーであるIKEAです。人々が実際に組み立てることができる標準化された製品を大量生産することにより、IKEAはそのコストリーダーシップ戦略で大きな競争上の優位性を獲得しました。現在、IKEAは52か国で433店舗を運営しています。

イケアは低コストに関して家具業界の絶対的なリーダーとなっていますが、その理由は次のとおりです。
標準化された製品
競合他社とは対照的に、IKEAはパーソナライズされた製品を提供していません。それらはすべて標準化されており、世界中のすべての店舗に向けて大量生産しています。結果として、小規模な競合他社では不可能な規模の経済を実現します。
自分で運ぶ・組み立てる
IKEAの家具は、基本は自宅へ自分で運び、そして自分自身が組み立てることになります。IKEAは組み立ておよび配送プロセスのためにコストを費やしていないため、価格が非常に低くなっています。
アウトソーシング
他の多くの企業と同様に、イケアは低賃金の国々で製品の製造をアウトソーシングしているため、さらにコストを削減できます。

以上がコストリーダーシップ戦略をとっている企業の例でした。その他、みなさんの身近な企業でもコストリーダーシップ戦略をとっている企業があると思いますので、是非見つけてみてはいかがでしょうか?

更に詳しく知りたい方は

さらに詳しく知りたい方は、udemyの「はじめての経営戦略論 ~勝てる市場を選び、勝つための強みを作る!4時間半で身に付けるビジネスパーソンとしての戦略眼」が非常にわかりやすいので参照してみてください(結構な頻度で80-90%オフのディスカウントをやっていますので、是非以下画像をクリックしてみてください!

まとめ

本記事の内容を箇条書きでまとめると以下となります。

  • 「事業戦略」とは「競争戦略」
  • 「競争戦略」には基本的な考え方として、「ポーターの競争戦略」と「コトラーの競争地位戦略」がある。
  • 「ポーターの競争戦略」は「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」がある
  • 「コストリーダーシップ戦略」をとるためには、「規模の経済性」「経験曲線による経済性」といったものを使いながら、シンプルな組織運営をすることが肝要
  • 「コストリーダーシップ戦略」をとる成功企業としては「マクドナルド」「Amazon」「IKEA」などがある

事業戦略立案にあたっては有用な理論になりますので、ぜひ皆さんも活用してみてください。次回は、「ポーターの競争戦略」の基本戦略の1つである「差別化戦略」に関して解説します。