マイケル・ポーターの競争戦略 差別化戦略とは何か?とその例

マイケル・ポーターの競争戦略 差別化戦略とは何か?とその例

前回の記事では、マイケル・ポーターの競争戦略の1つである、コストリーダーシップ戦略に関して解説しました。基本的には、規模の経済により固定費を下げるとともに、経験曲線効果によって変動費も下げることで低コストを実現する。一方で価格は極端にさげることはせず、一定のマージンを確保しながらシェアの最大化を図るという戦略でした。採用できれば非常に強力な戦略となりますが、一方で、トップシェア企業でしか採用しずらいという特徴があります。そこで今回は、トップ企業以外でも選択しやすい「ポーターの競争戦略」の「差別化戦略」に関して実例交えてご紹介していきます。

マイケル・ポーターの競争戦略とは(振り返り)

マイケル・ポーターは、競争の手段を

  • コスト(提供するソリューションは同質的)か差別化(提供するソリューションは異質的)か
  • 対象ターゲットが集中(競争に対する態度は競争回避)か広域(競争に対する態度は競争受容)か

の2つの要素で整理し、そこから競争優位を構築するための基本戦略(競争戦略類型)として、次の3つの基本戦略があるとしています。
 ①コストリーダーシップ戦略
 ②差別化戦略
 ③集中戦略

今回はこの基本戦略の中の「差別化戦略」に関して解説していきます。

差別化戦略とは

差別化戦略とは

「差別化戦略」とは、市場が認知する他社の製品・サービスの価値に対して、自社の製品・サービスの認知上の価値を向上させる戦略です。ポーターは、「差別化により顧客が認知する価値が上がっていること」を差別化戦略が成立するための絶対条件としています。

この「差別化戦略」を考える上で注意すべきポイントが2つあります。1つ目が、差別化は「顧客の認知上の価値」だということです。自社がいくら価値があると主張しても、顧客が認知できなければ意味がありません。2つ目が、「顧客に、他社と異なると認知される」ことと「顧客に、他社より価値があると認知される」ことは別物だということです。単に、「他社と違うこと=差別化戦略」と考える方がいますが、顧客価値が上がらない差別化は「差別化戦略」ではありません。(価値向上を実現せずに)単に他社の製品・サービスと違っても意味はなく、「他社より価値がある」と顧客に認知されることが、差別化戦略のポイントになります。

定義内容
一般的な「差別化」他のものと違いを際立たせること
マーケティング業界での「差別化」価格以外の部分で際立った特徴を持たせることで、他社製品との違いをアピールする戦略のこと
マイケル・ポーターの差別化戦略における「差別化」他社との明らかな特異性を作り出すことで競合優位を作り出し、価格が高くても買ってもらえる状態を指す戦略のこと

繰り返しになりますが、差別化戦略における「差別化」とは、単に他社と違うものを作ってアピールすることではなく、「他社製品やサービスと比べて、明らかな特異性がある」「価格が高くても買ってもらえる」という状態を作り出すことであり、「割高な価格を要求できることが差別化戦略の本質」といえます。

差別化戦略の7つの源泉。差別化戦略を実現させるための要件

企業の製品やサービスの差別化の源泉となる要素をまとめます。重要な7つの差別化要素です。

  • 製品の特徴
  • 機能間の連携
  • タイミング
  • 地理的ロケーション
  • 製品の品揃え
  • 他企業との関係性の強さ
  • 評判(ブランド)

差別化戦略を実行するための組織

組織構造

  • 部門横断的/機能横断的な製品開発チーム
  • 新たな機会を活用する組織構造を開発する努力
  • 創造的活動への資金確保

マネジメント・コントロール・システム

  • 幅広い意思決定が可能なガイドライン
  • ガイドラインの経営的な柔軟性
  • 実験を奨励する方針・企業文化

報酬制度

  • リスクを取ることを奨励。失敗を罰しない
  • 創造的な才能への報酬制度
  • 多様な視点でのパフォーマンス測定

差別化戦略をとる企業とは

コストリーダーシップ戦略は業界トップシェアの企業が採用しやすい戦略でした。一方で、業界2位以下の企業にとっては規模の経済・経験曲線効果といった観点から、コスト・リーダーシップは採用しにくいため、それ以外の戦略をとることになりいます。
それはつまり差別化戦略か集中戦略かということですが、差別化戦略とは、基本的には広い市場をターゲットにしながら、リーダーに対して製品・サービスで差別化すると考えられます。つまり、リーダー企業と同じ広い市場を選びながらもリーダーとは異なる効用を提供することによって顧客をひきつけて優位に立とうとする戦略であるため、リーダー企業と同等な経営資源を有する企業が取りうる戦略といえます。

差別化戦略の例

アップル

まず、差別化戦略の成功企業として挙げられるのは、Appleです。1976年にSteveJobs、Ronald Wayne、Steve Wozniakによって設立された同社は、家電業界とコンピューターソフトウェア業界に多大なる影響を与えてきました。実際、今日では、GAFAやGAFAMと呼ばれる世界を最も知られる企業の1つと見なされています。

それではどのようにして差別化を確保しているかを以下でみてみましょう。

製品デザイン
Appleのすべての製品の象徴的でエレガントでミニマリストなデザインは、ブランドを競合他社から際立たせる最初の要素の1つです。Appleの製品は、美しいだけでなく、各デバイスの使用を簡素化するためによく考えられたデザインになっています。この優雅さとシンプルさが高く評価され、価格がプレミアムであっても選択される理由の1つになっています。

オペレーティング・システム
製品におけるもう1つの差別化要素が、Apple独自のオペレーティングシステムです。Appleは、ユーザーエクスペリエンスをさらに強化し、UI・使い勝手、Appleエコシステムにおける接続のしやすさ、セキュリティといった観点においては競合他社の追随を許さない状態となっています。

高いブランドエクイティ
Appleの場合、多くの人は社名を聞くと製品をイメージできるとおもいます。製品に触れたことがある場合、使いやすさといった機能性や操作性、デザイン性など、様々なイメージをすぐに思い出すことができるかと思います。また、Apple製品を使用している際、どこかかっこいいと言った印象を持つ人も多いと思います。他のブランドの製品の場合、そのようなイメージを持てる方は少ないでしょう。

Tesla(テスラ)

差別化戦略の例の次のリストはTesla(テスラ)です。テスラは「世界を持続可能なエネルギーへ」というミッションを持ち電気自動車産業へ参入しました。当初、富裕層をターゲットとしていましたが、次第に富裕層以外に対してもアプローチし始めています。

以降で、テスラの差別化要素に関して説明します。

革新的な製品
最初のもっとも重要な点が、製品の革新性です。テスラはエンジンやハイブリッド車が大部分を占める自動車産業に参入し、人々を魅了する電気自動車を提供し始めました。彼らの車は環境に優しく、非常にハイテクであるだけでなく、独特で美しい美学を持っています。長年にわたり、多くの企業が電気自動車やハイブリッド車の製造を試みてきましたが、テスラが実現したディテールとエレガントなデザインを備えた企業はありませんでした。しかし、これらはテスラの製品を差別化する一部分でしかなく、以下のように様々な要素が含まれます。
・自分好みにカスタマイズできる自由度
・定期的なソフトウェアアップデート
・世界最大規模の急速充電ネットワーク
・自動運転機能

マーケティング戦略
テスラのもう1つの差別化ポイントは、同社特有のマーケティング戦略です。同社は従来のテレビ広告などよりも紹介と口コミ広告に重点を置いております。その手法により、マスに対してアプローチするのではなく、ターゲット顧客に対してアプローチしています。また、CEOのイーロン・マスク自身が歩く広告塔でもあります。彼の象徴的なインタビューや象徴的なツイートにより、彼自身およびテスラ両方に注目を集めることに成功しています。

エミレーツ航空

いわゆるLCCのような航空会社は、競争優位戦略としてコストリーダーシップ戦略のアプローチを選択していますが、航空業界において差別化戦略をとっている航空会社の代表例がエミレーツ航空です。エミレーツ航空はドバイを拠点とするアラブ首長国連邦の国営航空会社であり、同社は80カ国の150以上の都市に週に約3,600便を運航しています。

それではどのようにして差別化を確保しているかを以下でみてみましょう。

卓越したカスタマーサービス
エミレーツ航空の魅力のひとつとして挙げられるのが、自らが「空の5つ星ホテル」と自負するインテリアおよびサービスです。ファーストクラスであれば、個室があり、機内シャワースパやラウンジバーがあり、まさにプライベートジェットに限りなく近い体験を味わえます。また、たとえ、エコノミークラスであったとしても、何千ものチャンネル、機内Wi-Fi、郷土料理など、他の航空会社にはないようなものが含まれています。

最新の技術
その他の差別化要素として、最新のテクノロジーに多額の投資をしているという点です。そのテクノロジーをつかって、飛行機に高度なナビゲーション技術を使用することから、機内で最高のエンターテインメントを確保することまで、顧客体験の改善に向けて様々な取り組みをこなっています。

残りの「集中戦略」とは

ここまでで、ポーターの基本戦略のうち「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」に関してご説明してきました。あとは「集中戦略」ですが、現在では戦略理論としての価値はなくなっていると考えられています。

最大の理由は、「戦略とは集中である」「戦略とは捨てることである」と言われるように、どの戦略理論にも集中は必須だからです。戦略を決める上で集中することは大前提なので、基本戦略の選択肢として定義する必要性がないからです。実際、マイケル・ポーターも後年の論文では基本戦略としての集中戦略に触れていません。

更に詳しく知りたい方は

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まとめ

本記事の内容を箇条書きでまとめると以下となります。

  • 「事業戦略」とは「競争戦略」
  • 「競争戦略」には基本的な考え方として、「ポーターの競争戦略」と「コトラーの競争地位戦略」がある。
  • 「ポーターの競争戦略」は「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」がある
  • 「差別化」とは「顧客の認知上の価値」であり、自社がいくら価値があると主張しても、顧客が認知できなければ意味がなく、また、顧客価値が上がらない差別化は「差別化戦略」ではない
  • 割高な価格を要求できることが差別化戦略の本質

事業戦略立案にあたっては有用な理論になりますので、ぜひ皆さんも活用してみてください。