戦略の前に考えるべきもの。MVV。ミッション、ビジョン、バリュー

戦略の前に考えるべきもの。MVV。ミッション、ビジョン、バリュー

前回の記事では「経営戦略」という用語は、用いられるシチュエーション・文脈によって様々な意味を持ち、それぞれの立場によって考え方や定義が異なるため、「経営戦略」のレベル、構成要素を理解したうえで、立案すべきということをお話ししました。今回は、この経営戦略の立案にあたってまず初めに実施すべき、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の策定に関して説明します。MVVは、戦略の方向性・組織が成長していく方向性を定めるために必要な指針です。これがあることで、事業範囲や競合が明確になり、組織で働くメンバーのベクトルが合うだけでなく、外部の関係者や社会から信頼を得る役割も果たします。是非、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の意味・意義を理解し、作成にあたっての参考としてください。

MVV。ミッション、ビジョン、バリューとは

MVV。ミッション、ビジョン、バリューの概要

MVVの要素であるミッション(mission)、ビジョン(vision)、バリュー(value)については、色々な定義があります。いずれにおいても企業経営において大事であるとされていますが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)としているところもあれば、VMV(ビジョン・ミッション・バリュー)としているところもあり、更にはミッションとビジョンとは並列であるとしている企業もあり、各社にとっての位置づけは様々のようです。いろいろな定義がありますが、以下のような定義が一般的となります。

ミッション :
「会社として社会で実現したいこと」「組織が果たすべき使命・存在意義」「社会に対してどう貢献するか」
ビジョン :
「ミッションを実現するために到達すべき会社の状態」「実現を目指す」「理想とする姿、将来のありたい姿」
バリュー :
「ビジョンを実現する方法に対する価値観」「組織が持つ共通の価値観や行動指針」

MVV。ミッション、ビジョン、バリューとは「山登り」

ミッション・ビジョン・バリュー、それぞれの関係性を分かりやすく整理するためによく使われるのが「登山家」や「山登り」です。

まず、登山家の「ミッション」は、「山に登ること」です。「山に登ること」が登山家の使命であり、存在理由となります。なぜなら、登山家が山に登ることをやめたら、もう登山家ではなくなるからです。

次に、登山家の「ビジョン」は、「3年後に富士山頂に登頂する」「5年後にエベレストに登頂する」といったものです。登山家が目指すべき方向性であり、中長期的に「将来こうなりたい」と具体的にイメージできるものである必要があります。

そして、登山家にとっての「バリュー(行動指針)」とは「山の登り方」が対応します。「誰よりも早く登る」であれば、競争重視の登り方であり、「一人も脱落しないように」であれば、チームワーク重視となります。また、「山の登り方」には、王道ルードでひたすら頑張る(コストリーダー)や、誰も通らないルート(差別化)など「登る道」といった点もありますが、これが「戦略」に対応します。

なぜミッション・ビジョン・バリューが大事なのか?

それではこのミッション・ビジョン・バリューというものがないとどうなるのでしょうか?仮に会社の規模が数人の家族経営の企業や、スタートアップ企業では、誤解を恐れずに言えばそれほど必要ではありません。必要でないというよりも、会社のメンバー内で暗黙ではあるけれども共有されているといったほうがよいでしょうか。一方、会社や組織が大きくなり社員が増えるにつれて、トップの考えや熱量が、社員一人一人に届きにくくなるケースが多く見られ、組織のパフォーマンスが極端に落ちる、最悪壊れるという状態になります(この手の問題は「30人の壁」ともいわれます)。

この状況を乗り切るためには、ミッション・ビジョン・バリューとの策定・明文化・(見直し)が有効で、それを行うことで事業範囲が明確になり、競合が明確になる。そして、メンバー皆が同じ情熱を持ち、同じ方向に走ることでパフォーマンスを最大化することができるのです。

また、ミッション・ビジョン・バリューは、人材の採用や、評価制度における指針になるなど、さまざまな面で効果を期待できます。すなわち、魅力的な価値観であれば、それに賛同する優秀な人材が自ら応募してくることもありますし、価値観にフィットすることで、即座にパフォーマンスが発揮されるとともに組織としてのパフォーマンスも上がります。一方、価値観の合わない人が参画してしまうと、組織のパフォーマンスは落ち、不協和音がおこり、最悪人材の流出にもつながります。

MVV。ミッション、ビジョン、バリューの例

数々の有名企業も、それぞれの個性が見られるミッション、ビジョン、バリューを定めています。よいミッション・ビジョン・バリューはそれぞれの企業の特徴をよく表しています。いくつかご紹介しますが、みなさまも気になる企業・身近な企業のミッション・ビジョン・バリューを確認し、ぜひ参考にしてみてください。

トヨタ自動車

ミッション:わたしたちは、幸せを量産する。
 だから、ひとの幸せについて深く考える。
 だから、より良いものをより安く作る。
 だから、1秒1円にこだわる。
 だから、くふうと努力を惜しまない。
 だから、常識と過去にとらわれない。
 だから、この仕事は限りなくひろがっていく。

ビジョン:可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。
 不確実で多様化する世界において、トヨタは人とモノの「可動性」=移動の量と質を上げ、人、企業、自治体、コミュニティができることを増やす。そして、人類と地球の持続可能な共生を実現する。

バリュー:トヨタウェイ
 ソフトとハードを融合し、パートナーとともに
 トヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す

 ソフト:よりより社会を描くイマジネーションと人起点の設計思想。現地現物で本物を見極める。
 ハード:人とモノの可動性を高める装置。パートナーとともにつくるプラットフォーム。これらをソフトによって柔軟に、迅速に変化させていく
 パートナー:ともに幸せをつくる仲間(顧客、社会、コミュニティ、社員、ステークホルダー)を尊重し、それぞれの力を結集する。

どうでしょうか?トヨタ自動車にも関わらず、自動車という言葉は1文字もなく、可動性(モビリティ)という抽象化された言葉を用いていることや、ハードだけではなく、ソフト、プラットフォームという言葉を使っていることから、企業として今後変革していこうとする想いを感じます。一方で、ミッション部分はカイゼンを連想させるような内容になっており、トヨタの根っこがここにあるのかなと思わせます。

ソフトバンク

経営理念:情報革命で人々を幸せに
ビジョン:世界の人々から最も必要とされる企業グループ
バリュー:「No.1」「挑戦」「逆算」「スピード」「執念」

「No1」:いちばんって、楽しい。やる以上は圧倒的No.1
「挑戦」:挑戦って、楽しい。失敗を恐れず高い壁に挑み続ける
「逆算」:逆算って、楽しい。登る山を決め、どう行動するか逆算で決める
「スピード」:大至急って、楽しい。スピードは価値。早い行動は早い成果を生む
「執念」:あきらめないって、楽しい。言い訳しない、脳がちぎれるほど考え、とことんやり抜く

どうでしょうか?経営理念(ここではミッションととらえています)、ビジョンをみてもぐっとはきませんが、これは、ソフトバンクグループの事業範囲が多岐にわたっているため、抽象化するとこうなってしまうのかなと思います。一方で、「バリュー」の部分は、ソフトバンクらしさが出ているのではないでしょうか?「努力って、楽しい。」素晴らしい言葉だとおもいます

MVV。ミッション、ビジョン、バリューを浸透させる方法

ミッション、ビジョン、バリューは策定すれば終わりというものではなく、それをトップが組織・メンバーへ伝え、浸透させ、自分事化させることが重要です。以降では、それらの方法についてご紹介します。

トップが繰り返し繰り返し、MVV。ミッション・ビジョン・バリューの大切さを伝える

とにかくメンバーに向けてメッセージを送り続けることが重要です。キックオフや朝礼で語り、ホームページや社内報に繰り返し書く。タウンホールミーティングを開催し、意義・意図を伝える。ミッション・ビジョン・バリューの達成に向けて、トップが本気で取り組む姿をメンバーに見せ続けることがまず必要です。そうすることで、初めは「また上が言っている」「理想に過ぎない」等、半信半疑だったメンバーも、「今度は違うぞ」と聞く耳をもつようになるのです。

トップがMVV。ミッション・ビジョン・バリューを実践する

トップがメッセージを伝え続けることは重要ですが、それ以上に重要なのが、言動と行動の一致です。メンバーは想像以上にトップの行動を見ています。言葉ではいくらでも美しいことは言えますが、メンバーは言動ではなく行動を見て、トップの言動と行動が一致しないと納得しませんし、信頼を獲得できません。信頼がされないと、メンバは自分でも行動しようという思考にはなりません。

ミッション・ビジョン・バリューのカスケードと自分事化

メンバがトップの想いを理解・納得したとしても、行動に移すにはまだハードルはあります。それは、トップが語るミッション・ビジョン・バリューは行動に移すためには抽象的すぎるからです。これは当然といえば当然で、すべてのメンバーにフィットするためには、あまりにも具体的ではだめで抽象的にせざるを得ないからです。では、どうするか?ですが、よく行われるのが、トップからミドルそして現場のメンバーへミッション・ビジョン・バリューをカスケードダウンする、すなわち、具体化・細分化です。上位のミッション・ビジョン・バリューを自分自身の事業範囲に照らし合わせた場合、どのように解釈でき、具体化できるのか?自分なりのミッション・ビジョン・バリューにすることで自分事化ができ、ようやく行動に移すことができるようになります

行動と人事・評価をつなげる

会社がメンバーに対して発する最大のメッセージは「人事」であり「評価」です。つまり、「誰を評価するのか(しないのか」であり、「誰を偉くするか(しないか)」です。ミッション・ビジョン・バリューに照らし合わせた評価、そして人事を行うことがフィードバックにつながり、良い行動が強化され、習慣化され、ミッション・ビジョン・バリューの実践が当たり前になるのです。

更に詳しく知りたい方は

さらに詳しく知りたい方は、udemyの「はじめミッション・ビジョン・バリューのつくり方 ー 【ビジネスパーソンの基礎教養】組織力・チーム力を高めるための土台を築く」が非常にわかりやすいので参照してみてください(結構な頻度で80-90%オフのディスカウントをやっていますので、是非以下画像をクリックしてみてください!

まとめ

本記事の内容を箇条書きでまとめると以下となります。

  • 経営戦略を考える前にMVV。ミッション、ビジョン、バリューが必要
  • ミッション は「組織が果たすべき使命・存在意義」
  • ビジョン は「ミッションを実現するために到達すべきありたい姿」
  • バリュー :「ビジョンを実現する方法に対する価値観」
  • ミッション、ビジョン、バリューを組織に浸透させていくためには、トップが語り・実践し、メンバーへとカスケードして自分事化させ、評価すること重要

以降の記事では、戦略立案における各要素に関して、詳しく説明するとともに、実践例・失敗談を紹介していきます。次回の記事では、戦略立案のベースとなる現状分析に関してご紹介します。