成長戦略の描き方。製品市場マトリクスとアンゾフのマトリクス

成長戦略の描き方。製品市場マトリクスとアンゾフのマトリクス

前回の記事では、戦略立案においてまず必要な現状分析の方法として、3C分析、4C分析、PEST分析といったものを説明しました。これらの分析を行うことで、自社の企業および事業がおかれている現状を理解することができるとともに、今後の戦略立案におけるKSFの示唆を得ることができます。今回は、現状分析を実施したのちに実施する事業領域の設定の仕方や、企業を成長させるために、現状の事業領域をどう評価し、どこに向かっていくべきなのか?を考えるための手法およびフレームワークをご紹介します。

成長戦略とは

経営戦略とは、企業戦略+事業戦略+機能戦略」の中でもお話ししましたが、成長戦略とは一言でいうと「事業領域の選定と、経営資源の配分」です。企業は一般的に複数の事業で構成されている一方、企業が保有する経営資源(ヒト、モノ、カネ)は有限で、枯渇しているのが一般的です。そのような状況の中、企業を持続的に成長させるために、事業領域の選択と集中、および事業間での経営資源配分を行ことが企業戦略であり、時として成長戦略と呼ばれます。

事業領域を定める製品市場マトリクス

事業領域を定める製品市場マトリクスとは

成長戦略を描く準備として、まず現在の事業領域を明確化する必要があり、その際、「製品市場マトリクス」というコンセプトを使うのが一般的です。その名のとおり、事業領域を「どのような顧客や市場に対して、どのような製品やソリューションを提供するのか」という2軸で定義します。通常は、市場を横軸にとり、製品およびソリューションを縦軸にとって事業領域を表現します。この各セルの1つずつが事業ユニット(BU)となり、このBU単独もしくは複数が戦略立案のベースとなる場合は戦略事業単位(SBU)と呼ばれ、これごとに事業戦略を立案することになります。

事業領域の評価

現在の事業領域を製品市場マトリクスで整理したのち、次はその事業領域の評価と、今後の攻めていく事業領域の目星をつけていきます。

現在の事業領域の評価

事業領域の評価にあたっては、各事業領域が含まれる市場の「市場規模の大きさ」「市場の成長性」「自社のシェア」「自社のシェアの動向」「利益率」の5つの指標でまず評価するのがよいでしょう。市場規模が大きく、成長性がある領域は今後も注力するに値しますが、市場規模が大きくもなく、成長も見込めない、そして利益も出ていない場合は撤退も視野に入れる必要があります。また、市場が成長しているにもかかわらず自社のシェアが落ちている場合は、競争力がない・競争戦略が間違っているということが考えられるため、何らかの対策が必要と評価できます。

今後の事業領域の選定

また、企業を成長させていくには、今後事業を展開していく領域を選択する必要がありますが、その際のスクリーニングにおいては「市場魅力度」と「資源適合度」という2つの観点で評価するのがよいでしょう。
 市場魅力度:市場規模、市場成長性、収益性、競合状況等
 資源適合度:研究開発・技術、生産・設備、販売・チャネル、人的資源、評判やブランド、知的財産権等

アンゾフのマトリクス(アンゾフの成長マトリクス)

製品市場マトリクスで現在の事業領域を明確化し、さきほど紹介したような観点で事業領域を評価したのち、企業の成長戦略を練るためのフレームワークとして、アンゾフのマトリクス(アンゾフの成長マトリクス)というものが存在ます。非常に有名で分かりやすいものなのでみなさまご存じだったり、使ったことがあるのではないでしょうか?

アンゾフのマトリクスとは

アンゾフのマトリクスとは、「戦略は組織に従う」という言葉で有名な経営戦略の父・経営学者イゴール・アンゾフによって提唱された事業の成長・拡大を図るためのフレームワークです。事業の成長について「市場」と「製品」の2軸を設定し、さらにそれぞれを「既存」と「新規」に分けることで、4つの象限に分け、それぞれでとるべき戦略を規定しています。

アンゾフのマトリクスが示す4つの戦略

市場浸透戦略

既存市場へ、既存製品およびサービスをより販売し、売上高アップやシェア拡大をめざすのが「市場浸透戦略」です。売上=顧客数×売上単価×購入数/購入量×購入頻度で表せますので、顧客ひとり当たりの購入数/購入量や購入金額を増やしたり、購入頻度・リピート率を高めたりする。競合他社の顧客へアプローチするといったことが一般的です。4つの戦略の中で最もリスクの低い戦略ではあるものの、短期的な側面が強く、競合との競争激化により収益性が落ちるリスクがあります。また、既存市場で顧客数を伸ばすことや、既存製品の値上げを行うことは、簡単ではないため、購入数/購入量と購入頻度を上げる施策が重要となります。

新製品開発戦略

既存存市場に対して新製品を投入することによって、成長しようとする方向性が新製品開発戦略と呼びます。既存製品における新機能の追加やバージョンアップ、関連製品や付属品の販売といったものや、物理的なものだけでなくデザインの変更、サービス、コンサルテイング等も加えて展開するという戦略も製品開発戦略となります。研究開発・生産設備や人材への投資を必要とするため、市場浸透戦略に比べリスクは高くなります。

新市場開発戦略

既存の製品を新しい市場へ販売していく戦略です。新しいエリアやターゲットなど、これまでアプローチしてこなかった市場の開発を行います。ここでの市場開発とは、今後成長が期待されるアジア新興国、南米、アフリカといった地理的なものだけでなく、大企業から中堅企業へといった展開も含まれます。事業の拡大が見込める適切な市場を特定し、販売チャネルの開拓といったことも必要となるため、市場浸透戦略よりもリスクが高いと考えられています。

多角化戦略

新市場へ新製品およびサービスを投入する戦略です。全く新しい事業を立ち上げる戦略であり、経験のない市場で新製品を投入するため、マーケティングのコスト、販売・チャネル構築コスト、製品・サービスの開発コストがかかるなどのリスクがあり、従来事業とのシナジー効果が薄い一方、既存市場および既存製品の将来性がなくなり、リスクがあっても新しい収益源を求める時、または求めなくてはならない時に、ハイリスク・ハイリターンの多角化戦略がとられます。

市場浸透の事業を進めながらも、企業は成長を求めて新市場開発、新製品開発、そして多角化と、リスクを取りながらも新たな事業の可能性を探索しながら展開を図ることになります。その際、企業が求めるリターンを得るために、複数の事業間で限りのある経営資源をどのように配分すべきなのかということが次に考えるべき重要なテーマとなります。

多角化戦略における4つの方向性

この多角化戦略について、アンゾフはさらに「水平型」「垂直型」「集中型」「集成型」といった4つのパターンに分類しています。

水平型多角化

同じ分野での事業を広げるのが水平型多角化です。既存の技術やノウハウを活かしながら、既存市場と「類似した市場」へ新製品・新サービスを投入する多角化です。バイクを生産していたホンダが自動車を生産するといったものが例として挙げられます。このような場合は、いままでのマーケティング戦略やサプライチェーン、技術・設備・ノウハウを活かすことができ、相乗効果・シナジー効果も期待できます。

垂直型多角化

バリューチェーンの上流・下流へ事業を拡大するのが垂直型多角化です。素材メーカーが最終製品、例えば繊維メーカーであれば服の製造・販売までといった下流へ事業を広げたり、一方で、完成品組み立てメーカーが、部品製造や調達といった上流へ事業を広げるのが例として挙げられます。水平型多角化と比べると、新たな技術・ノウハウの獲得、新設備の導入やチャネル構築などの多角化の負担は大きくなり、リスクは高くなります。

集中型多角化

集中型多角化は、一見既存の事業とは関わりの薄い新規事業に見えるものの、コア技術や主要顧客などが関連している場合の多角化です。既存事業とは直接関係のない分野への進出になることが多いものの、既存事業の技術や顧客のいずれか、または両方に関連させながら事業展開する特徴をもち、生産面・販売面でのシナジー効果を得られる可能性が高い多角化です。典型的な例が富士フイルムであり、写真フィルムの原料に使われているコラーゲンへのノウハウなどを化粧品開発へ応用しています。

集成型多角化

従来の事業とは直接には関係のない分野に進出する多角化です。自動車メーカーが住宅事業や金融、通信へ進出するケースや、スーパーが銀行業務に進出するケースが該当します。既存の製品と既存の市場双方に関連ない新しい分野への多角化であるため、シナジーが期待できないことから、単一事業としてのリスクは大きくなります。しかし、会社全体としてみた場合は、業種のことなる事業を複数持つことにより、リスク分散が図れることから、企業全体としてのリスクを低下さえることができる。集成型多角化はコングロマリット型多角化といわれることもあります。

更に詳しく知りたい方は

さらに詳しく知りたい方は、udemyの「はじめての経営戦略論 ~勝てる市場を選び、勝つための強みを作る!4時間半で身に付けるビジネスパーソンとしての戦略眼」が非常にわかりやすいので参照してみてください(結構な頻度で80-90%オフのディスカウントをやっていますので、是非以下画像をクリックしてみてください!

まとめ

本記事の内容を箇条書きでまとめると以下となります。

  • 成長戦略立案にあたっては、「製品市場マトリクス」と「アンゾフのマトリクス」の活用が有効
  • 製品市場マトリクスを用いることで、事業領域を「製品」と「市場」の2軸で定義可能。
  • 現在の事業領域の評価にあたっては、「市場規模の大きさ」「市場の成長性」「自社のシェア」「自社のシェアの動向」「利益率」を用いるのが有効
  • 今後の事業領域の選定にあたっては「市場魅力度」と「資源適合度」という2つの観点で評価するのがよい
  • 企業の成長戦略を立案するにあたっては「アンゾフのマトリクス」が有効であり、「市場浸透戦略」「新製品開発戦略」「新市場開発戦略」「多角化戦略」といった戦略がある

次回の記事では、成長戦略を実現性あるものにするための資源配分の仕方や、その際の有効なツールであるプロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)に関してご紹介します。

成長戦略立案に関して詳しく知りたい方は、以下の書籍などを参考にするとよいと思います。ご参考までに