異文化理解のモデル「7 dimensions of culture」
(1)普遍主義 vs 特殊主義

異文化理解のモデル「7 dimensions of culture」<br>(1)普遍主義 vs 特殊主義

本記事では、異文化理解のための有効なモデルである「7dimensions of culture」の最初の次元である「普遍主義」と「特殊主義」に関してご紹介します。

普遍主義(Universalism) vs 特殊主義(Particularism)

私たちは皆、規則や規制に縛られた世界に住んでいます。憲法・法律・社則や学則などです。どんなことがあっても規則に従う人もいれば、特定の状況に応じて規則を曲げたり破ったりする人もいます。7 dimensions of cultureの最初の次元である「普遍主義」と「特殊主義」は、私たちが規則や規制に対してどれだけの柔軟性か判断するのに役立ちます。

普遍主義とは

Universalismは「普遍主義」と一般的に訳されます。「普遍」を辞書でひいてみますと、「全体に広く行き渡ること」「例外なくすべてのものにあてはまること」や、哲学用語で、「宇宙や世界の全体に関していえること」「ある範囲のすべての事物に共通する性質」といった意味があります。

「普遍」がこのような意味をもつことから、普遍主義文化に属する人々は、状況に関係なく規則に従う必要があると信じている人々です。簡単な例で言いますと、たとえ車が全く来ない田舎の横断歩道において、赤信号では横断しないような人は「普遍主義」だといえます。そのため、「普遍主義」の人々は、ルールを絶対のものとして、たとえどのようなルールであっても人々をそのルールにしたがわせようとする傾向があります

特殊主義とは

一方、Particularismは特殊主義や個別主義と訳されます。「特殊」は「限られた範囲のものにしかあてはまらないこと」といった意味があることから、特殊主義文化の人々は、ルールは一般的なガイドラインでしかないと考えています。すなわち、法律や規制はそれはそれであるとしたうえで、状況や人間関係が、自分の行動を決定します。同じ赤信号の例でいえば、赤信号であっても車が来ないのであればわたってしまう人々は「特殊主義」的な性質をもっているといえます。

もう1つ、わたしたちが「普遍主義」か「特殊主義」を判断するための例をご紹介しましょう。たとえば、あなたがとても大切な友達や恋人、もしくは家族の一員が運転する車に乗っていたとします。その際、運転手がスピードを出しすぎ、わき見運転をした結果、歩行者を不運にもひいてしまったとします。あなたのほかに目撃者はだれもいません。あなたはどうしますか?たとえ大切な人であってもルールを破ったからと警察に突き出しますか?それとも、だまっているでしょうか?おそらく、誰もいない赤信号を渡る渡らないといったときよりもどうするかを悩んだのではないでしょうか?。このように「普遍主義」「特殊主義」のどちらか一方に属するというわけではなく、私たちはどちらにも属しており、どちらかの傾向が強いというようになります

日本人はどっち?

わたしたち日本人は、自分は普遍主義なのか特定主義なのかどちらなんだろうと悩まれる方もいらっしゃると思います。以下が先ほどご紹介した事例で、友達が事故を起こした場合に「助けない(=普遍主義)」を回答した各国の割合です。

みてのとおり、日本人は普遍主義と特定主義の間にいます。一方、アングロサクソン諸国、北欧諸国、ドイツなどは典型的な普遍文化に属しますし、インド、中国、韓国、ロシアなどは典型的な特定の文化といえます。

ビジネスコミュニケーションにおける特徴とヒント

「普遍主義」「特殊主義」それぞれの特徴をご紹介しましたが、両者の違いから、普遍主義の人々は、特定主義の人々を「信頼できない」「混沌としている」「予測不能」「縁故主義者」とみなします。一方、特定主義の人々は、普遍主義の人々を「柔軟性がない」「冷たい」「不誠実」「チームプレーではない」「融通が利かない」とみなします。よって、異なる文化の人々がビジネスを行うと、うまくいかないことがしばしば起きます。以降では、お互いに価値観の異なる人々との異文化理解、異文化コミュニケーンにおいて気を付けるべきことをご紹介します。

普遍主義文化でのビジネスにおける特徴とヒント

■特徴

  • ビジネスにおいては、明確なプロセス、指示および手順を提示し、それに従って仕事を進めようとします。(すなわち、とても合理的ということです)
  • 意思決定においては、客観的なプロセスおよび評価基準もとづいておこないます。
  • 価値観および信念にもとづいて行動します。

■Tips

  • プロセスや指示、約束を守り、一貫性を保つことが信頼獲得やビジネスの成功に繋がります。
  • 意思決定者と評価基準をもとにしてアプローチしましょう。
  • みずからの価値観および信念を伝えるとともに、相手の価値観および信念も理解するようにこころがけましょう。そうすることで相互理解につながります

■注意事項

  • ビジネスでは契約が非常に重視されます。ルールが好まれ、例外は認められません
  • 問題発生の際、即座に裁判に持ち込まれる可能性があります(特にプロテスタント系の国)
  • 仮に例外を認めると、信頼失墜につながります

特殊主義文化でのビジネスにおける特徴とヒント

■特徴

  • ビジネスにおいては人間関係ありきです。ビジネスを開始する前に、相手を理解し、人間関係を構築することが必要です。
  • ルールはどうあれ、状況によって判断されます
  • 意思決定は状況に応じて柔軟に行われます。

■Tips

  • ビジネスを始める初期段階で時間をかけましょう。それが後の成功や時間の節約につながります。具体的にはスモールトークが重要な役割を占めます
  • (ルールは破ってもいいと思う傾向があるため)必ず従う必要のある重要なルールとポリシーがある場合は、それらを強調して伝えましょう。
  • 意思決定する際には、柔軟性を持たせるとともに、相手のニーズを尊重しましょう。

■注意事項

  • ルールなどよりも人間関係が重視されます。ルールを強制することはモチベーション低下や信頼関係の低下につながります。また、人間関係重視が過度になると、実力に関係ない身内びいきが横行します
  • 意思決定などに時間を要し、急がされると疑念をもちます
  • グローバル企業などにおいては、ローカルのボスの言うことは聞きますが、本社の言うことはききません。
  • 時として、コンプライアンスを遵守していないことを偽装します

事例

以降で、わたしおよび周囲のメンバーが経験した異文化コミュニケーションの事例をご紹介します。

具体例① ~アメリカ企業との契約~

10数年ほど前、私がまだ新入社員同然だったときのことです。アメリカ企業とビジネスをすることになり、ビジネススキームも決まり、いざ契約となった際、数百ページにもおよぶ契約書を提示されました。

当時はまだ伝統的日本企業であった私が勤務する企業の幹部は、「長い契約は不信感の表れ」であると憤慨しました。一方、アメリカ企業は幹部は、日本企業が契約に時間がかかっていることを理解できずに、厳しい納期を設定してきました。結局これが決定打になり、契約に至らずに破談となってしまいました。非常に将来性あるビジネスであったにも関わらず、異文化理解の不足から失敗した典型的な事例だと思います。

具体例② ~中国企業との共同プロジェクト~

次に、中国にある企業とビジネスした際のことです。日本で大型のシステム導入案件を受託し、ソフトウェアのオフショア開発を中国企業に委託した際の例です。

このプロジェクトは、非常に高い品質を求められ、納期もタイトであったため、プロジェクト管理の方法をすべて日本で規定したものを中国企業でも採用してもらうことで始まりました。具体的には、進捗も日ベースで管理し、品質も細かいメトリクスを測っていくというやり方で、日本では当たり前のやり方でした。しかしながら、中国企業側のメンバーの反発は激しく、はじめはルールが遵守されず、日本側が強く要求したところ、虚偽報告がされるという事態にまで陥りました。

その他、いろいろな要因からオフショア開発はうまくいかず、中国開発分を日本側で引き取ったため、日本側のコストは膨大となり、最終的には赤字となってしまいました。これも異文化理解の不足、異文化コミュニケーションの重要さを痛感した出来事でした。

まとめ

本記事では、7dimensions of cultureの1つの次元である「普遍主義」「特殊主義」の特徴と異文化理解、異文化コミュニケーションにおけるヒントに関してみてきました。その中で、国際的な文化の違いの2つの事例をご紹介しましたが、これらの文化の違いは、日本企業間や日本人同士でも起こることです。たとえば、伝統的企業や大企業では普遍主義的になる一方、スタートアップや規模の小さい家族経営的な企業では特定主義的になります。ぜひ、自分自身や同僚・家族や取引先について分析してみてはいかがでしょうか?きっと、日々のコンフリクトの理由がわかり、関係改善に向けたヒントを得ることができるはずです。

異文化理解に関して詳しく知りたい方は、以下の書籍などを参考にするとよいと思います。ご参考まで

また、コミュニケーションの基礎となる英語を学びながら、様々な文化、そして戦略立案やマーケティングといったビジネスにおいて必須の知識を学べるオンライン英会話スクールがあるので、よかったら試してみてください。