異文化理解のモデル「7 dimensions of culture」
(2)個人主義 vs 共同体主義

異文化理解のモデル「7 dimensions of culture」<br>(2)個人主義 vs 共同体主義

本記事では、異文化理解のための有効なモデルである「7dimensions of culture」の2番目の次元である「個人主義」と「共同体主義」に関してご紹介します。

個人主義(Individualism) vs 共同体主義(Communitarianism)

私たちは、少なからず何かのチームやグループに属し、その影響下で生きています。会社や学校、市や町のコミュニティなどです。そのような中、チームとして働くのを好む人もいれば、個人として働くのを好む人もいます。この指向が異なるメンバーがチームとして活動する場合、かならずコンフリクトが発生します。それを予見し、対策するためにも、7 dimensions of cultureの2つ目の次元である「個人主義」と「共同体主義」の把握が非常に役立ちます

個人主義とは

individualismは「個人主義」と一般的に訳されます。「個人主義」を辞書でひくと、「国家・社会の権威に対して個人の意義と価値を重視し、その権利と自由を尊重することを主張する立場や理論」と書かれています。辞書によっては「利己主義」と同じとされています。

このような社会では、個人と個人の関わり方がゆるく、個人の利益が集団の利益に対して優先されます。そのため、人々は自由に自分自身の利益を追求し、結果として得られる個人的な業績が認められ、賞賛されます。 世にいう、「アメリカンドリーム」が個人主義の縮図であり、人々は勤勉と自由が成功につながると信じて行動します。

また、個人主義文化では、単独または少数の意思決定者が意思決定を行います。そのために相談する必要はありません。したがって、意思決定者は迅速に意思決定を行うことができますが、その責任はその人自身にあると考えられます。

共同体主義とは

Communitarianismは「集団主義」や「共同体主義」と一般的に訳されます。「集団主義」を辞書でひくと、個人よりも集団に価値を置く思想であり、「個人主義」の対義語として定義されています。また、「共同体主義」とは、20世紀後半のアメリカを中心に発展してきた共同体の価値を重んじる政治思想と書かれています。マイケルサンデルの「白熱教室」にも出てきたのでご存じの方も多いかと思います。

このような社会では、個人と個人の関わり合いが強く、個人の利益よりも集団の利益が優先されます。すなわち、多くの人々のニーズは少数の人々のニーズを上回り、集団の利益や繁栄と引き換えに個人の犠牲が払われることが期待されています。日本では、終身雇用の概念は共同体主義の価値観の代表的な例といわれています。

また、共同体主義文化では、私たちが互いに助け合うことで生活の質が向上すると信じられています。したがって、これらの文化ではグループを中心に組織化され、グループに対して強い忠誠心があります。その結果、意思決定は個人ではなくグループでおこなわれる傾向があり、意思決定は遅くなります。一方、グループの忠誠心が高いため、仕事の離職率は低くなります。

日本はどっち?

わたしたち日本人は、一般的に共同体主義、集団主義であるといわれています。以下が個人主義の各国の比率を表したグラフが以下となります
【図】

みてのとおり、日本人は共同体主義に属しています。また、典型的な個人主義文化の国は、カナダ、米国、オーストラリア、英国などアングロサクソン諸国、北欧諸国などとなり、典型的な共同体文化には、ラテンアメリカ、アフリカ、および日本が含まれます。どうでしょうか?みなさんのイメージと比較的一致しているのではないでしょうか?

ビジネスコミュニケーションにおける特徴とヒント

「個人主義」「共同体主義」それぞれの特徴をご紹介しましたが、両者の違いから、個人主義の人々は、共同体主義の人々を「自分ではなにも判断できない」「意思決定が遅い」とみなします。一方、共同体主義の人々は、個人主義の人々を「自分勝手」「チームプレーができない」とみなします。よって、異なる文化の人々がビジネスを行うと、うまくいかないことがしばしば起きます。以降では、これらの人々とビジネスを行う際の異文化理解、異文化コミュニケーンにおいて気を付けるべきことをご紹介します。

個人主義文化でのビジネスにおける特徴とヒント

■特徴

  • 会議や交渉の参加者は少人数で、決定権限がある人が参加します
  • 自律的に行動することができます
  • 意思決定者は迅速に意思決定を行うことができます。

■Tips

  • 個人のスキルと努力および業績を称賛し、報いましょう
  • 人々に自律性を与えて、彼ら自身で決定を下せるようにしましょう
  • 人々のニーズとグループまたは組織のニーズとリンクさせしょう

■注意事項

  • 個人の意思を変えることは難しいでしょう
  • 人材の流動性は高まります

共同体主義文化でのビジネスにおける特徴とヒント

■特徴

  • 大人数を引き連れている人は、地位が高い傾向があります
  • グループにおける役割で満足感を得ます
  • 意思決定のためには「相談」や「合意形成」が必要となり、意思決定は遅くなります。一方、実行段階はスムーズにいくことが多くなります
  • グループの忠誠心が高いため、仕事の離職率は低くなります。

■Tips

  • (もにあなたが個人主義なら)我慢強くなりましょう
  • グループのパフォーマンスを称賛し、グループに対して報酬を与えましょう
  • 人々が意思決定に他の人を巻き込むことを許可しましょう

■注意事項

  • 個人を公に称賛すること、差別を示すこと、成果主義は裏目に出る可能性があります
  • 合意が暫定というものになるケースがあります

事例

以降で、わたしおよび周囲のメンバーが経験した事例をご紹介します。

具体例① ~アメリカ企業とのプロジェクト~

とある企業のサプライチェーン改革を支援した際のことです。日本本社とアメリカ販社の間のビジネスプロセスを見直すことで、販売機会損失回避、在庫削減を目的としたプロジェクトでした。最初は順調に進んでいたのですが、次第にアメリカ側のとあるメンバーのタスクに進捗遅れが目立つようになり、全体スケジュールに対しても影響が与えるほど深刻なものになってしまいました。

日本側のリーダーであった私は、アメリカ側チームのリーダーに対して、チームのマネジメントをしてほしい。メンバーの遅れは他のメンバーでカバーし、チームとしての進捗を保ってほしいとリクエストを出しましたが、アメリカ側チームのリーダーはメンバーの責任だといって取り合ってくれません。そうしているうちに、そのリーダーは、他社で魅力的なポジションのオファーをもらったとのことで突然いなくなってしまいました。

その後、新しいリーダーとともに立て直しをし、なんとかプロジェクトを終えることはできたのですが、予定より約半年もの期間を必要としてしまいました。

具体例② ~イギリス国籍の中途社員~

私の所属するグループにイギリス国籍の中途社員が配属されることになったときのことです。日本人の時と同じように、配属当日に歓迎会を企画したのですが、来ませんとのこと…。業務時間外であることと、家に帰ってスキルアップのための勉強をしたいのが理由でした。その日は、歓迎する相手のいない歓迎会を行いました…。

その子とのコンフリクトは続きます。とある業務改革プロジェクトに参画してもらった時のことです。彼の担当タスクの進捗が悪かったために理由を確認したところ、「自分に興味がある仕事ではない。自分はデータ分析の仕事したい」とのこと。何度か話合いましたが結局お互い相容れず、プロジェクトから離脱してもらい、その後、会社の違う組織へと異動することになりました。

いずれも自分自身の例であり、この異文化理解のモデルを理解していれば、もう少し何とかできたのではないか?と思ってしまいます。みなさんも同じようなことを経験したことはありませんでしょうか?今はなくても、今後日本社会がより多様化していく中で起こりうる、異文化コミュニケーション上のコンフリクトだと思います。

まとめ

本記事では、7dimensions of cultureの1つの次元である「個人主義」「共同体主義」の特徴と異文化理解、異文化コミュニケーションにおけるヒントに関してみてきました。その中で、国際的な文化の違いの2つの事例をご紹介しましたが、これらの文化の違いは、日本企業間や日本人同士でも起こることです。たとえば、伝統的企業や大企業は共同体主義的になり、会議にゾロゾロ大勢出てきたり、意思決定が遅かったりします。一方、スタートアップや規模の小さい企業では担当者が全権限をもって即断即決していくといったケースが良くあります。ぜひ、自分自身や同僚・家族や取引先について分析してみてはいかがでしょうか?きっと、日々のコンフリクトの理由がわかり、関係改善に向けたヒントを得ることができるはずです。

異文化理解に関して詳しく知りたい方は、以下の書籍などを参考にするとよいと思います。ご参考まで

また、コミュニケーションの基礎となる英語を学びながら、様々な文化、そして戦略立案やマーケティングといったビジネスにおいて必須の知識を学べるオンライン英会話スクールがあるので、よかったら試してみてください。