景気循環サイクルを意識した資産運用 長短金利差編

景気循環サイクルを意識した資産運用 長短金利差編

一般的な資産運用では、投資するお金の一部を株に、一部を債権に分散投資しましょう。リスク分散のためにドルコスト平均法で積み立て投資しましょうといったことが書かれています。また、一歩進んだものになると、投資家の年齢や投資スタイル・リスク許容度に応じて、若いうちはリスク高めの外国株式、定年間近では国債等へアロケーションして、低リスクで行きましょうとなっています。

しかしながら、本当にこのような資産運用で私たちの資産は増えていくのでしょうか?これらは一見理論的で誰にでもマネできる手法に見えますが、市場の変化・景気循環サイクルという考えが抜け落ちています。

本記事では、「一歩進んで、市場の変化・状況を理解したうえで資産運用するにはどうしたらよいのか?」と悩まれている方に対して、長短金利差を使った資産運用方法をご紹介します。

景気を判断するには

市場の変化・状況、すなわち世の中の景気に応じて資産運用する、投資対象を変えるにはどうしたらよいのでしょうか?いろいろと世の中の景気を判断する指標がありますが、ここでは、アメリカ国債の2年物金利と10年物金利の長短金利差で判断する方法をご紹介します。

なぜ金利で景気がわかるのか?

一般的に、景気と金利は密接な関係にあるといわれます。景気が回復してくると、企業の設備投資が旺盛になります。また、個人の住宅や耐久消費財の購買意欲が高まる結果、資金需要が増して金利に上昇圧力がかかります。逆に景気後退局面では、資金需要の減少から金利には低下圧力がかかることになります。このように景気が回復すれば、金利は上昇し、景気が後退すれば、金利は降下するという関係があり、金利動向を見ることで景気をすることができます。

景気の先行き感をみるための長短金利差

金利のうち、短期金利は足元の景況感や金融政策等の影響を受けることになります。一般的には景気が低迷している際には金利を引き下げることで、貸出金利が下がって企業や個人が借り入れをしやすくなり経済活動がしやすい環境になりますし、景気が過熱気味である際には金利を引き上げることでインフレや経済活動を抑える環境を作ることができます。

一方、中央銀行がコントロールできるのは短期金利で、長期金利は投資家による金融政策予測に応じて変動する特徴をもっています。すなわち、これから景気がよくなって、将来的にどんどん金利を上げていくことが予測されるのであれば、長期金利もあがっていくことになります。

このため長期金利から短期金利を引いた長短金利差は、将来の短期金利変化の予想を表し、今後景気拡大が続き、将来の短期金利が上昇すると市場が予想していれば拡大し、景気が後退し短期金利が低下していくと予想していれば、縮小することになります。 このように、長短金利差を用いることで将来の景気予想をすることができます。

長期金利はアメリカ国債10年物金利、短期金利はアメリカ国債2年物金利

ここまで、長期金利、短期金利という表現を使ってきましたが、実務上は長期金利はアメリカ国債10年物金利を、短期金利はアメリカ国債2年物の金利をそれぞれ用います。なぜアメリカ国債なのかというと、米国市場が最も世界の市場にインパクトを与えるためです。ご存じの通り世界の基軸通貨は米ドルであり、最も安全な資産とされるアメリカ国債は各国の外貨準備としても採用されており、アメリカの金利が動くと世界に大きな影響をもたらすからです。

景気循環サイクルを意識した投資

それでは、以降で長短金利差、短期金利、長期金利の3つの指標をもとに、どのような投資判断をすればいいのかをご紹介していきます。

景気回復局面(短期金利:上昇,長期金利:上昇,長短金利差:拡大)

景気が回復し、将来的にどんどん景気がよくなっていくと考えられる時期です。将来、金融政策で金利を引き上げていくことが予測されるため、短期金利も長期金利も上昇しますが、長期金利の上昇の方が大きくなっていく状態です。

この状態では、景気が良くなっていく局面ですので株は上がりやすい傾向を持っています。よって、この段階では積極的にリスクをとった投資をすべきといえます。具体的には外国株式および外国債券の投資割合を増やすべきです。

景気過熱局面(短期金利:上昇,長期金利:上昇,長短金利差:縮小)

景気が過熱気味になっている状態で、中央銀行が短期金利を上げていくフェーズです。このとき、長期金利も上昇していきますが、将来もずっと景気が良く、金利が上昇し続けるという状況でもないため、短期金利の上昇ほど長期金利が上がらず、長短金利差は縮小していきます。

過熱気味ではあるものの、景気は良い状態なので、株は上昇基調にあります。また、本来は金利をあげなければいけないものの、一気に上昇させると市場が混乱する可能性があるため一気にはあげられず、それを見越した投資家たちは利上げがしてこないと予測するため、さらなる株高となる場合もあります。

このような状況では、あらゆるリスク資産が割高になっている時期といえます。よって、大きなリスクをとるべきではなく、金などの防衛的な資産へシフトしていくことをお勧めします。また、日本株式は、景気回復の最後の局面で大きく上昇するという特徴もあるため、日本株に投資するのもありです。

景気減速局面(短期金利:下降,長期金利:下降,長短金利差:縮小)

景気が減速している局面で、将来的にも景気が落ち込むことが予測されるとき、中央銀行が将来にわたって金利を下げていくことが予測され、長期金利が短期金利よりもさがるシチュエーションです。

このような局面は、将来もずっと景気が悪いと判断される状況であるため、株をあらたに買うべきではない時期といえます。この時期においては、国内債券や防衛的な資産である金などに対して積極的にシフトすることをお勧めします。

景気後退局面(短期金利:下降,長期金利:下降,長短金利差:拡大)

景気が後退している状態で、中央銀行が短期金利をどんどん下げている局面です。しかしながら、将来にわたってずっと景気が悪い予測ではない場合、将来の金利がそこまで下がらない見通しとなり、長短金利差は拡大していくことになります。

中央銀行が景気を回復させようと金利を下げている局面であるので、基本的には株を買うべきタイミングではないといえます。このようなときは、国内債券、外国債券を買って凌ぐことをお勧めします。

しかしながら、昨今の金融政策では、「量的緩和」が導入され、中央銀行も株を買い支えるといったことをしているため、本来さがるはずの株が逆に大きく上がる局面となります。このような景気循環サイクルを逸脱した市場環境はアベノミクスやコロナ後の相場で近年みられるようになったことから、長短金利差に加えて、各国の金融政策を注視しながらの投資が必要となります。

ちなみに、長短金利差が逆転するとき、一般的には大きなショックがきます。これは、債券市場で長短金利差で収益がでなくなるため、別の投資に手を出した結果として、不良債権が発生するといったことが起こるからです。ぜひこのようなポイントにも注意することをお勧めします。

まとめ

本記事では、景気循環サイクルを意識した資産運用方法をご紹介しました。
まとめますと、
・長短金利差を見ることによって、景気を把握することができる
・長期金利は米国債10年物、短期金利は米国債2年物の金利を活用する
・短期金利、長期金利、長短金利差を使ったお勧め投資対象はあるものの、近年は官製相場も考慮すべし

その他、いろいろな景気サイクルの把握方法もありますので、ぜひいろいろと試して、より一歩上の投資を目指してみてはいかがでしょうか? また、ポートフォリオの中核となるETFの選び方および具体的な銘柄に関して、「マネーマシンとはの作り方 ETFの選び方①」「マネーマシンとはの作り方 ETFの選び方②」の中で述べましたので、ぜひお時間あるときに読んで頂ければと思います。

また、参考となる本を紹介しますので、ご興味あるかたはご覧になってください。